地球の引力に引かれて、後方に長くストリングスをなびかせるユニウスセブンは
まるで深海に漂う巨大なクラゲのように思わせた。




ザフト軍、ナスカ級艦ボルテール。
その艦橋で接近しつつあるプラントの残骸を見つめている者が居た。
ジュール隊である。





「あのさぁ、イザーク…」

「何だ?!まだ言いたいことがあるならはっきり言え!」




今回の作戦内容を確認していると、副官であるディアッカがイザークに少し言いずらそうに声を掛けた。
直球型のイザークには少しそれが気に食わなかったらしく、声を上げた。
ディアッカはまだ、言いずらそうにしてはいたが、真実を知りたいという好奇心には勝てなかった。



「……本当にちゃん、あそこに居んの?」

「……ああ。議長と共に保護命令が出ている」

「お前ら、いつから拗れちゃったわけ?」

「……」




それはイザークもずっと考えていることだった。
何故、あの時は俺に何も告げずに居なくなっかたのかとずっと自問自答の日々を送っていた。




あの日、の居なくなった日のことはイザークの心に今も鮮明に刻み込まれていた。
あの頃は後方勤務で朝に会って出かけた時は普通だった。
いや、平常を保とうと彼女のガラスよりも繊細な心は懸命に隠そうとしていたのかもしれない。

は元々好戦的なタイプではない。
庭の植物の世話をしたり、ちょっとした焼き菓子を焼いたりと、
本来ならそんなことをして過しているはずの女性だった。
だが、彼女に妹ができるまで元々弱い体に鞭を打って、戦闘訓練に明け暮れていた。
皇帝の名を継ぎ、女帝と成るべき存在として生を受けてしまった。
一人娘であるは特定の場所に隔離されつつも、帝位を継ぐためと必死に訓練を積んだ。
そう、彼女に義妹ができるまでは―――――。

とは、言ってももしかすると彼女は自分に妹が出来ることを知っていたのかもしれない。
彼女にはそのチカラがある。
この運命から解き放ってくれる存在が現れることに気付いていたのかもしれない。
彼女の母親はを生んで今現在では他界している。
(イザークにはのいた世界の時間の流れは分かっていない。)
(彼女の世界の)何百年の時を経て、自分の父親が次の運命の相手に出会い、
どうなるのか多分、わかっていたのだろう。
だから彼女には今がある。




幼少の頃、俺達は出会い、そして、は今、俺との約束を守るためにこの地に留まっている。
そのはずだった。
今の俺にはが何を考えているのか、分からなくなってしまった。
と俺の想いは同じものだったはず、同じザフトに居ながら何故、俺の傍に居ない。




「あ、悪ぃ…」

「いや、……俺にもよく分からないからな」

「イザーク…」



イザークにはが自分の元から去った事により少なからず、傷ついていた。
ディアッカにはもちろんそれは分かっていたが、確認せずにはいられなかった。
そして今の魂の抜け殻のようなイザークは見ていられなかった。
















届カナイ愛ト知ッテイタノニ… 



















シンにもカガリの言葉が分からないわけではなかった。
だが、カガリの言葉は今の現実では奇麗事にしかならないのは事実だ。
自分は間違っていないと、シンは自分に言い聞かせた。



幾ら、自分達は不戦を唱えても相手は銃をむける。
手を差し伸べても彼らは払いのける。
そんな世界で奇麗事を信じるほどもう、シンは子供じゃなかった。
カガリのいうそんな世界があれば良いとはシンも思う。
だが、実際、現実にはそんなの何処にもないじゃないか!
なら、どうすれば良いって言うんだ!




アラートのドアが開き、その音でシンは我に返った。
入ってきたのは白に薄紫に配色されたパイロットスーツを着たレイだった。
レイはシンが居るのに気付いているはずなのに、黙って壁のディスプレイに向かって、データチェックを始める。
さっきの一件について何か言われるとシンは思っていたのに、呆気にとられてレイの背中を見つめてしまう。
その気配を感じたのか、レイが肩越しに振り返った。




「何だ?」

「い…いや、別に……」




シンはうろたえて言葉を濁す。
レイは何事もなかったようにディスプレイに向き直りながら無造作に言った。




「気にするな。俺は気にしていない。――――お前の言った事も正しい」




レイのいつも通り淡白な口調で言った。
だが、シンはレイの何気ないその態度に堪え切れない笑みが浮かぶ。
シンはその変わりのない態度とその気遣いが、そして自分が肯定されたことが嬉しかった。


少し経って、シンはのことに気付いた。


(そう云えば、レイがさんのこと運んだんだよな。大丈夫なのかな?
 …うーん。でも、訊いちゃ悪いかな?……でも、気になる…、いいや、訊いちゃえ!)



「あ、あのさ、レイ…、さんは大丈夫なのか?」

「ああ、問題はない。あのまま、じっとしていてくれれば、だがな」

「へ?」

「いや、なんでもない」




意を決してレイに尋ねてみると案外あっさりと答えが返ってきて、シンは拍子抜けした。
てっきり”お前には関係ない”だのどうしてそんな事を訊く?”と言われると思ったのに。
だけど、後半部のレイの言葉は呟くように小さくてシンには聞き取る事はできなかった。



































が艦橋に上がると、モニターにはユニウスセブンが映し出されていた。
それを見て、は少し懐かしさを覚えたが直ぐに我に返り、ギルバートに向き直った。




「お兄様……」

「どうしたんだい?




がギルバートのことを兄と呼ぶことに違和感を感じた。
確かにそういう契約だったが、それはギルバートには不快に思わせた。
はそんなことは気にもとめずに、重々しそうな口調で続けた。



「ご無理と承知の上申し上げます。―――もう一度、私にMSに搭乗する許可を下さいませんか?」

「具合は良くなったのかね?」

「はい、もう問題ありません」

「そうはとても見えないがね?」

「大丈夫です。そもそも、また戦闘に出るわけではありませんわ。

 本当に大丈夫です。唯の破砕作業ですもの、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ」




何故、この少女は頑張らなくてはならないのだろう?とギルバートは思った。
本来ならば、別の生を歩んでいたはずの存在だ。
何が、彼女を変え、この世界は何故、留ませようとするのか。
多分、その答えはギルバートの中にあったが、もしかしたら、
彼にとって認めたくはなかった事実だったのかもしれない。


ギルバートはを戦場に出したくはないと思う反面、彼女の願いは全て叶えてやりたかった。
だから、ギルバートの答えは始めから決まっていた。




「仕方ないな…は」

「あら、きっとお兄様に似たのですわ」

「そうかね?……艦長、そういうことなんだが、MSを貸してくれるかね?」

「ええ、それは議長さえ、宜しければ此方としても願ってもないことですが…」



ははっ…と、声を上げて笑って、の相手をするギルバートを
ブリッジクルーは不思議な面持ちで彼らを見ていた。
議長のプライベートが垣間見れたようで、複雑な心境なのだろう。

タリアはを見つめていた。
それは元恋人を取られたから、というわけではない。
タリアはが今回の強奪事件によってミネルバに乗り込み、
それによって彼女に負担を掛けさせてしまったことを知っているからである。
MS整備に艦橋のプログラムチェックなど様々な手伝いを行っていた。
あの外見で博士号を取得している彼女だからこそできることなのかも知れないが、
それは度を越えていた。いつ過労で倒れてもおかしくないはずなのである。
いや、彼女は本当に睡眠をとっているのだろうか?
それさえも、タリアには判断は難しかった。

ギルバートがの出撃許可を出してしまったことによって、タリアにはそれを拒否することは出来なくなった。
なんて無茶をする子なのだろうと、タリアは恐ろしささえ感じた。
今は唯、あの子が無事で帰って来ることだけをタリアは願う事しか出来なかった。




「ありがとうございます。それでは失礼します」








が艦橋から居なくなったのを確認してから、タリアは議長に話しかけた。




「議長、あのこきっと長生きできないですわよ」

「そうだな…。私の方からそう言っておくよ。無理はしないように、ね」




それはギルバートも日々感じている事だった。
に止めるように口を出したくても、出せなかった言葉だった。





































!!どういうことだ!?」

「どういうって、だから今、言いましたでしょ?私も出撃しますって…」



MSデッキにて、怒声が響いていた。
それは滅多に冷静を崩さないレイのものだった。
周りに居た整備兵もパイロットも皆、唖然としている。
議長の妹君であるの両肩を掴み、凄い勢いで怒鳴り散らしている。
だが、は慣れた様子でレイを交わしている。



「何を馬鹿な事を!はまだ、安静にしてなくては駄目だろう?!」

「あら、もう 大丈夫ですわ。本人が言うのですから、間違いありませんでしょう?」

の大丈夫ほど当てにならないものはないだろう?!

 大人しく此処で寝ていてくれ!」

「まあ、酷いですわ。私は大丈夫なのですのに、何故出てはいけませんの?
 
 お兄様の、…議長の許可も頂いていますのに!」

「だが!…」



周囲の者は終わりそうもない言い合いに唖然として見つめているだけだった。
もう直、作戦が開始されるというのに、と思っては見てもあの二人に割って入ろうとするものはいなかった。
一名を除いては。



「はいはい、そこまでー。

 レイもさんが大丈夫だって言っているんだから、良いじゃない、それで。

 議長の許可も貰ってるわけなんだしさ」

「まあ、ルナマリアさんありがとうございます」

「いえいえー。私はさんの味方ですからー」




ルナマリアの意見はレイには都合の悪いものらしく眉間の皺を深くした。
が嬉しいそうに助けに入ってくれたルナマリアにお礼を言っている様子を見て、
レイはもっと機嫌を悪くした。

だってレイが心配してくれているのを分かっていないわけではない。
だが、彼女には引けない訳があった。




「ルナマリア!」

「だって、このままじゃ埒、明かないじゃない」

「だが……」

「私だってさんの事心配よ。でも、それは私達が何とかすれば良いじゃない。

 別にさんだって素人じゃないわけだし、何とかなるわよ」

「…分かった」




レイにだってが引かないことくらい分かっていた。
だが、には戦場には出て欲しくない、辛い思いをさせたくないと、そう思っていたのに。
だから、分かってはいながらも足掻いたのだ。
もしかしたら、の気も変わってくれるかもしれないと淡い期待を持って―――。




「ありがとうございます。レイ……私も我侭言っていると分かってしますわ。

 でも、私はこれだけは譲れないのです。

 …地球にも私の大切な人達が生きているんですもの、黙って此処でじっとなんてしてはいられないのですわ」

…」



なら、なんで始めからそう言ってくれないんだ。
俺にそう言えば済むことではないのか?
が自ら危険を冒す必要なんてないんだ。

俺は頼って貰えないほど、不甲斐ない男なのか―――?

レイはそう思った。
































































<あとがき>
なかなか進まないですねえ。
本当なら、降下の辺りまでいきたいところなんですが、
ここで切らないとえらく長いなりそうなので。

今回は結構ALLっぽく書けたかな?
気付いたら素っ飛ばし過ぎてアスランが出ていない気が……。
今、きっと彼は議長にヒロインと同じく出撃許可を貰いにいってるんですよ。
すれ違いです;;
次回はきっとでますよ。

とりあえず、ちょっとでもイザークが出せて満足しています。
その日の気分で書いているので、文体めちゃくちゃでしょうけど気にしないでくださいな。
改正版でちゃんと書くので。
今はとりあえず、完結目指して急いで描いています。

今回、少しレイが激情すぎたかな?
すこし失敗かも。
あとはやっぱり、敬語の方がよかったかな?なんて・・・
口調が某○○とおなじなんで。