「オーブの、アスハ!?」
シンは思わず耳を疑った。
オーブ、アスハ―――どちらも彼にとっては特別な意味を持った名前だ。
シンは壁を蹴って戻り、機体に取り付いたルナマリアの側に寄った。
ルナマリアはやや興奮した面持ちで頷く。
「うん。私も吃驚した!こんな所で、大戦の英雄に会うとはね。
でも、何?あのザクがどうかしたの?」
シンの顔が強張った。現在、国家元首を、自分達と殆ど年齢の変わらない
アスハ家の少女が務めている事は、彼も知っていた。
前大戦での戦いにも身を投じ、大戦を終結に導いたということで、英雄扱いされている事も、
その事実はシンに苦しい思いを抱かせる。
ルナマリアはシンの表情に気付いた様子もなく、無造作に聞いた。
「あ、いや・・・ミネルバ配備の機体じゃないから、誰が乗ってたのかなって。」
シンは慌てて言葉を濁す。アスハ家の人間に助けられたなんて言える筈が無い。
いや、言いたくなかったのだ。
さっぱりした人柄で、人の言葉を疑う事のないルナマリアは
シンの言い訳をあっさり受け入れたようだ。
「操縦してたのは、護衛の人みたいよ。アレックスって言ってたけど・・・でも、アスランかも?」
「え?」
シンは虚を衝かれて目を瞬かせた。アスラン―――その名前も記憶にあった。
ルナマリアは身を乗り出して続ける。
「代表がそう呼んだのよ!とっさに・・・その人の事、アスランって!
・・アスラン・ザラ・・・今はオーブにいるらしいって噂でしょ?」
軍部に置いてはエリート中のエリートともいうべき存在。
しかし後に、軍を脱走し、行方知れずになっていたはずだ。
彼の憶測については様々だが、その中には確かオーブへ亡命したという説もあった。
「・・・アスラン・・・ザラ・・・。」
シンは先輩である彼の名を呟いた。
もし、本当にその彼ならば、初めて乗った機体でも自分達を圧倒させる戦いができたとしても、
不思議ではないかもしれない。
だが、なぜそんな人がアスハの護衛なんかをやっているのか、シンは釈然としない思いを廻らせた。
「あ!そうそう!」
「!?・・・・・え、何?」
ルナマリアの突然の声にシンは現実に引き戻された。
ルナマリアの方に視線を戻すと、先程とはまた、違った雰囲気で身を乗り出してきた。
「私ね、会ったのよ!議長の妹・・・・様に!」
「え!?嘘!!なんで!?」
自慢げにの名前を出すルナマリアにシンはそれに飛びついた。
裏ではが何者であるか、という話も飛び交っている。
その中に、真実もあったのだ。
以前、オーブで外交官を務めていたでその正体は光の神と呼ばれる一族の末弟だ、と。
大戦を終え、その事が表立ってではないにしろ知れ渡った今では、
の事が有名なのは仕方の無い事かもしれない。
なにせ、あの国の情報は無に等しいのだから。
だが、戦後処理を経て行方不明となり、それから人々から希望の名は消えた。
そんな人物と同じ名前が今になって出てきては、行きどう気持ちも無理は無かった。
「公式発表は明日、進水式の後って事になってたでしょ?
その打ち合わせで来てたみたい」
「そうじゃないくて!どうしてルナが会えるんだよ!?」
「それがねぇ、なんと!レイが知り合いみたいで議長の別件が終わるまで護衛を頼まれてたわけ。
とは言っても、私達が忙しい事は理解してたみたいで、邪魔するどころか・・・
私達の手伝いまでしてくれちゃったのよ!」
「ええ!!」
「あんた・・・、信じてないでしょ?」
「だって、様って言ったら各地の外交でオーブに留まっているなんて事、
殆どありえなかったんだぞ!」
そんな彼女がこんな処にいるなんて思うか!と、シンは肩を揺らしながら続けた。
この二人もそんな噂を真に受けている。
最も、それは本当の事なのだが、それに気づいている者はほんの一握り。
このご時世、こんな嬉しいニュースでもなければやっていけないのだ。
「あ〜あ、俺も会いたかったなあ・・」
「あら、会えるわよ」
「へ?なんで?」
「だって、この艦に乗ってるのよ」
「ええっ?!!」
残念そうに呟くシンにルナマリアは何言ってんのよ。と口を挟む。
ルナマリアの意外な一言にシンはきょとんと目を丸くする。
ルナマリアはそんなシンの様子を苦笑しながら答えた。
その言葉を聞いてシンの絶叫が艦内に響き渡った事は言うまでもない。
怒れる瞳
「しかしこの艦も、とんだことになったものですよ。
進水式の前日に、行き成りの実戦を経験せねばならない事態になるとはね・・・・・・」
通路を進みながらギルバートが述懐する。
アスランとカガリは彼に伴われ、ミネルバ艦内を案内されていた。
彼らの先をレイが案内する。
はと云うと、ギルバートを横目に誰にも気付かれないようため息をついた。
ザフトの者ではない者を艦内を案内するのも十分おかしかったが、
表上、民間人のにも艦内を自由に歩かせる事も十分におかしい事だった。
はいろんな人を見てきたが、是ほど政治家に向いている人物は彼以外に考えられなかった。
それ故に、思わず溜息が漏れるのだ。
擦れ違った兵士が敬礼し、アスランは反射的に手を挙げて礼を返す。
先導するレイがエレベータの前で立ち止まり、ドアを開きながら告げる。
「ここからMSデッキへ上がります」
「え・・・・・・・」
アスランはそれに困惑の色を見せ、目を見開いた。。
しかし、ギルバートはまるで頓着する様子も無く、彼らを促してエレベータに乗り込む。
に到ってはもう既に予想した事態なので不機嫌面ではあるが、それに続く。
そしてエレベータ内でギルバートは牽制するように説明する。
「艦のほぼ中心に位置するとお考えください。搭載可能数は、むろん申し上げられませんし、
現在その数量が載っているわけでもありません」
むしろその情報の制限に安心させられるという、奇妙な状態になっている。
アスランはちらりと疑うようにギルバートに視線を向ける。
議長の穏やかで端正な顔立ちの何処にも、底意のある様子は窺えない。
だが、何故かこの男のなすことに、深い意味が潜んでいるような気さえする。
この滑らか過ぎる弁舌の所為だろうか。
エレベータが開いたとたん、アスランは議長の詮索を忘れて息を呑んだ。
広々とした格納庫には、ずらりとMSが並んでいた。
MSに対する興味はアスランもカガリも同様に、思わず感嘆な眼差しをこの空間になげる。
四層になったデッキがあり、MSのパーツが収容されている。
「―――そしてミネルバ最大の特徴ともいえる、この発進システムを使うインパルス。
工廠でご覧になったそうですが?」
「あ、はい・・・・・・」
話を向けられ、アスランは落ち着かない様子で頷く。
そしてギルバートは得意げに言った後、カガリにからかう様な目を向けた。
カガリは一瞬の熱意に、罪悪感を感じたような表情で、ギルバートの言葉に反応し、挑むように言う。
そのあまりに子供染みた言葉にギルバートは失笑した。
ギルバートの言葉にやりきれないような表情で呟き、キッと目をあげた。
「争いがなくならぬから力が必要だ―――とおっしゃったな、議長は」
「ええ」
「だが!ではこの度の事はどうお考えになる?!
あのたった三機のMSを奪おうとした連中のために、貴国の被ったあの被害の事は!?」
真っ直ぐで硬質なカガリの視線を、ギルバートは柔らかな物腰で受け止める。
カガリは激した口調で、ギルバートをまるで挑発するように聞き返す。
「だから、力など持つべきではないのだと?」
「そもそも何故、力が必要なのだ?!そんなものが、今更!!
我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない。互いに手を取って歩む道を選ぶと!」
カガリはもどかしげに訴える。
その声は次第に大きくなり、MSデッキ全体に響き渡る。
作業している者達が此方に目を向けているのにカガリは気付かない。
今、カガリにはどう見られるかなど構ってはいない。
その事実がの心を苛立たせた。
今、カガリが口にしている事は代表としての態度と云うには非常に良くない。
そう、彼女の行動は二年前から何も変わってはいない。
個人としては良いのかも知れないが、国家を代表する者としては非常に悪い。
今、彼女に求められるものは個人的な感情ではなく、広い視野から見据えた言動だ。
彼女の性格を知っているでも頭を抱えたくなる。
たった、十七歳の少女なのだから仕方が無いと云えば、済むものではない。
彼女は一国家の代表なのだから。
今、直ぐにでも怒鳴りたい気持ちを押え付ける。
そんな時、一人の少年の声がMSデッキに響き渡った。
「さすが、奇麗事はアスハのお家芸だな!」
「シン!」
聞こえよがしに発せられた嘲弄に、アスランは驚愕して声のした方を見やる。
アスハという名前を口にしたという事はそれを分かっての発言に違いない。
レイが横で怒りにやや表情を硬くして手すりを飛び越える。
彼の向かった先には同じ赤服を身に着けた少年の後姿がある。
少年はゆっくりと振り向き、挑むような視線をカガリに投げつける。
それにカガリはたじろぎ、僅かに身を引いた。
先程までカガリの様子に苛々していたまでも彼の姿をその目に焼き付ける。
彼の発言はオーブという国を知る者でなければ言えないものだ。
それは以前、オーブに住んでいた事を意味するに違いない。
だが、ウズミは市民に慕われた存在だったはずだ。
その彼の一族に怒りをぶつける者―――、彼に何が起こったのかは気になった。
それはもウズミを慕っていたからである。
カガリも、そのシンと呼ばれた少年も二人ともその瞳が真っ直ぐだった。
だから、後先考えずに行動するのだと、は苦笑する。
どちらも仕方ない子供達だ―――と。
『――敵艦捕捉。距離8000!コンディション・レッド!
パイロットは搭乗機にて待機せよ!』
一触即発の空気を、打ち破るかようにアラームが鳴り響く。
とたんに、シンの発言に凍り付いていたスタッフが、
その空気を打ち消すように慌ただしく動き始める。
捕らえて叱責しようとしていたレイの手を振り払い、シンはMSデッキから飛び出していく。
その後ろ姿に呼びかけた後、レイは此方に向き直り、折り目正しく敬礼した。
そして戦闘に備えてその場を離れていく。
ギルバートは今更ながら取り直すようにカガリに弁明する。
分けが分からないといった表情だったカガリはギルバートの言葉に衝撃を受ける。
もその言葉を横で聞き、なるほどと思った。
彼が本当にオーブからの移住者ならば、自国を守りきれなかったアスハが、
今ものうのうと国家元首の地位にあれば、怒りを覚える者もいるだろう。
は唖然とするカガリの前に出た。
「代表。失礼ながら申し上げます。――もう少し、自覚をお持ちください。
今のように容易く取り乱してはなりません。
いつまでも個人的な感情で動けば、いづれ誰からも支持を得なくなります。
もう少々、周りに気を配り為さいませ。―――それでは、失礼致します」
は言いたいことだけ言うと、カガリが更に唖然としているのも構わずにその場を離れる。
アスランが後ろで何か言いたそうにこちらを見ていたが、には今、それに答えられそうもなかった。
「姫。私の妹までもが、申し訳ない。いつもは口を出すような娘ではないのですが・・・」
「議長?妹と、とは?」
「此れは失礼しました。公式発表はまだですが、私の義妹にあたる娘で、と言います」
「そうか・・・」
が去って数分後、カガリがふと、不思議に思って此れもまた直球に問いかけた。
ギルバートは忘れていました。とでも言うように事実を告げる。
カガリは今日、一日で疲れ果てた所為か、これ以上は聞けなかった。
だが、カガリは心の奥底で懐かしいものを感じていた。
何処かで会ったような気がするのだが、何故か思い出せなかった。
その思いはアスランも同様だった。
ただし、あの””ではないか?と疑ってはいるのだが―――。
<あとがき>
どうやら、スランプかもしれません。
絡みが無いです。
本当に申し訳ありません。
アニメ沿いは長く書けるのですが、沿い過ぎて駄目ですね。
離れすぎてもいけないですし、沿い過ぎても面白くもないですしね。
シンはもう少し、ヒロインに敵意を持ってもいいかもしれませんね。
でも、行動は表沙汰にはなっていないので知ってないんだろうな・・・。
あくまでもヒロインは”AMATERASU”ではただの外交官ですのでその辺をご理解頂きたい。
なぜ、有名かというのも話せば長くなりますしね。
はやく前作を完結しなくては話がみえてきませんかねえ?
ヒロインネタばれだけ書くか、そっちを進めないと駄目ですかね?
アイドルとかにも興味がなさそうでしたし。
それにしてもヒロインの年齢はもはや禁句ですかね?
今、現在の外見年齢は16、17位にしておいて下さいね?
次回はもう少し、夢小説らしく書けるように頑張ります。
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