君の影 星の夜に 朝にとけて 消えていく



行き先を 無くしたまま 想いは溢れてくる












予兆





久しぶりにギルバートの屋敷を訪れたレイだったが、
何処からか聞こえてくるその歌に驚いた。
その声の主はアリシアだった。
レイはアリシアの事は何一つも知らなかった。
興味もそんなに沸かなかった。
だが、レイはこの時から・・・・アリシアの哀しい歌を聴いてから
彼女から目が離せなくなった。
レイは彼女の哀しみを知り、それを取り去りたいと願ったのだ。






「あら、レイ着てたの?」




早く声を掛けてくれればいいのに、
とアリシアは笑みを浮かべて言った。
先ほどまでの哀愁漂っていた表情は今は何処にも無い。
俺はずっとアリシアに気を使わせていたのか、と自嘲した。
レイのいつもと違う様子にアリシアは疑問を浮かべる。



「レイ?何かあった?大丈夫?」

「え・・・、ああ」

いつもと違い、ハッキリしないレイにアリシアはくすりと微笑する。



「変な、レイね。いつまでもこんな所にいないでサン・ルームに行きましょ」



レイの脇に腕を通してその場から動こうとしない彼の体をサン・ルームの方へ引っ張って行く。
いつも楽しそうに笑っているアリシア。俺は何故、今まで気づかなかったのだろう・・・・、
彼女の哀しみに。その正体はレイにはまだ、分からなかったが、
確実に以前と違いアリシアに歩み寄ろうとしていた。



「今日はギルは戻って来ないのよ。分かってきたの?」



ああ。と、短く返事をするレイの姿にアリシアは悪態をつく。
珍しいのね、と。
やっぱり何かが違うレイの様子にどうしたものか、
と首を傾げて考えてみたが答えが出てくるはずもない。
やっぱり本人に直接、聞いた方が早い。優雅にギルバートの使用人、
所謂、メイドが用意した紅茶を片手に何やら考え込んでいるレイの姿を見て、
どう切り出そうかとアリシアは考えた。




「・・・アリシアは歌が好きなのか?」




アリシアが声を掛ける前にどうやら考えが纏まった様子のレイが声を掛けてきた。
レイの前触れの無い質問に驚愕したが、
次に内容に疑問を持った。アリシアは今では歌手としての活動はしていない。
ギルバートはラクス・クラインに変わるザフトの歌姫にならないか?と
冗談半分な事を言われるが、戦後は本当にその事に関しては何も活動してはいなかった。
たまにギルバートに頼まれて歌うか、誰もいない静かな処では気づくと歌っていたという事もある。
そこまで考えて、もしかして・・・。と、ある事に気が付いた。
レイの存在に気付く直前、歌っていた、という事実に。
失態だと、アリシアは自嘲した。
今度から気をつけないと、――――と。



「え、ええ 。そうね、嫌いではないわ」



どうにか言葉を発したアリシアにレイは「そうか」と、顔を少し赤らめた。
アリシアはどうしてかわからず、「具合でも悪いの?」と、聞いても、
何処も悪くないと答えるレイに「本当に大丈夫?」と、席を立ち、駆け寄る。
額に手を当てて、本当に熱はないのを確認しても、
アリシアはいつも何事にも冷静で表情を変えない彼の変化が唯、心配でどうしよう・・・。と考えを巡らせる。
レイはレイでアリシアの顔が近くにあって直視できなくなり、
さらに顔を紅潮させるものだからアリシアの心配は無くならない。
そんな彼にとりあえず、「部屋に戻りましょう」と、レイを立たせ、
忙しく動くアリシアの様子にレイは唯、ポーッと眺めている事しかできなかった。
レイの課題は大きかった。























(05/6/28)